事業承継対策(会社オーナー様・社長様の相続対策)
最近は「事業承継」という言葉をご存じの方も増えていると思いますが、
・いったい「事業承継」とは何なのか?
・「事業承継」対策をすべき理由は?
・どのような方法があるのか?
・「事業承継」について弁護士は何をしてくれるのか?
など、知らないことばかりではないでしょうか。
これらについて分かりやすく説明していきたいと思います。
事業承継とは何か?
いったい、事業承継とは何なのでしょうか?
後継者不足という言葉をよく耳にしますので、
経営を後継者に任せることが事業承継だと考える方もいると思います。
また、事業承継税制という言葉も聞きますので、節税をイメージする方もいると思います。
相続争い、М&Aなども関係していそうだと考える方もいるでしょう。
いずれも、事業承継に関係する問題ですが、事業承継のある一面しかとらえていません。
事業承継の対象は事業そのものですので、人・物・金・情報(ノウハウなど)全てに関わる問題です。
(1)人の承継(後継者探し)
いわゆる後継者探しと育成です。
親族や役員・従業員の中から後継者を選定し、育成することで、一般的に5年以上の時間が必要とされています。
後継者が見つからない場合は、第三者へ株式の売却(М&A)を行う方法があります。
(2)資産の承継(法的対策・税務対策)
先代経営者が保有する自社株式を後継者へ移転すること、
また、先代経営者が所有する事業に提供している不動産など事業用資産を後継者へ移転することです。
法務面と税務面の検討しながら、承継計画を立案する必要があります。
(3)知的資産の承継(経営ノウハウの承継)
ブランド、ノウハウ、人脈などを承継することです。
事業承継対策をすべき理由は? 事業承継対策の必要性について
まず、事業承継対策の内、人の承継(後継者探し)が実現できない場合、
廃業ということにならざるを得ません。
現在の日本は、大廃業時代とも言われており、
2025年までに日本の企業の3分の1に相当する約127万社が廃業の危機にみまわれ、
その約半数(約60万社)が黒字にもかかわらず廃業、
雇用喪失約650万人、GDP約22兆円が失われると試算されています。
日本政府が事業承継を促す政策を掲げてきた理由は、ここにあります。
次に、後継者が見つかった場合でも事業承継対策は必要です。
特に親族内承継において生じる問題ですが、
何らの対策をしなかった場合、相続争いによって経営権が確保できず破綻してしまうケースや、
多額の相続税に苦しむケースがあります。
知的資産の承継については、経営をする上で不可欠なのは説明するまでもありません。
事業承継の3つの方法
事業承継の方法という側面から整理すると以下のとおりになります。
(1)親族への承継
後継者への株式の集約・移転、遺留分侵害への配慮、連帯保証債務の扱いへの対応が求められます。
(2)従業員への承継
親族内承継と共通する部分が多いですが、特徴としては、買取資金の調達が問題になります。
(3)第三者への承継(他社への売却、M&A)
デューデリジェンス(財務・法務・税務に関する調査)への対応、
株式譲渡契約締結交渉などへの対応が求められます。
この3つ場合それぞれについて、経営面、法務面、税務面の対策が必要です。
弁護士による事業承継対策とは? 事業承継の専門家は誰か?
事業承継を誰に相談するかという問題もあります。
後継者が見つからない場合は、
М&A仲介会社、FA(ファイナンシャルアドバイザー)などが買い手を見つけてくれますし、
節税や納税資金の確保の相談では、税理士がアドバイスをしてくれます。
では、事業承継において、弁護士は何をしてくれるのでしょうか?
(1)資産の承継へのアドバイス・支援
弁護士がアドバイスする場面の1つは、資産の承継です。
具体的には、先代経営者が保有する自社株式を後継者へ移転することですが、
単に移転することが目的ではなく、安定的に経営を出来るように、
3分の2以上、最低でも過半数の議決権を保有できるように集約して、移転することを目指す必要があります。
一方で、後継者以外の推定相続人の遺留分を侵害するリスクがあるため、
遺留分を配慮した生前対策が必要になります。
①自社株式の集約・移転(会社法や民法による対処)
②遺留分への配慮(民法・特に相続法による対処)
という2つの相反する要請を調整する必要があり、弁護士のアドバイスが最も必要とされる場面と考えられます。
※遺留分対策に関する詳しい解説は、以下をご参照ください。
(関連記事)「Q. 遺留分を渡さなくていい方法?遺留分対策について8つの具体的方法を弁護士が解説」
(2)第三者へのM&Aに関するアドバイス・支援
第三者への承継の際には、
・株式譲渡その他のM&Aのスキームの選択
・DD(デューデリジェンス、財務・法務・税務に関する調査)への対応
・契約交渉・契約書の作成
などM&Aに関する法律知識と経験が求められます。
(3)コーディネーターとしての役割
上記の資産の承継やM&Aの支援のみならず、事業承継全体について相談に乗るとともに、
事業承継計画の立案や、税務・会計・商業登記等が必要な場合には、
外部の税理士・公認会計士・司法書士との調整を図るなど、
コーディネーターとしての役割を担うことも可能です。
事業承継対策に弁護士が関与すべき理由
中小企業の場合、弁護士が関与せずに、
顧問税理士・コンサルタント・M&A仲介会社のみが関与して行われることも多く、
また、対策も事業承継税制など節税や買主探しをメインに行われることが多く、
法務面については疎かになりがちです。
しかし、せっかく事業承継対策をしたにもかかわらず、
相続争いに発展したり、第三者へ売却後に損害賠償請求をされるなど紛争になってしまえば意味がありません。
相続法、会社法(種類株式の設計、定款変更、株主総会決議、取締役会決議など)、連帯保証債務への対処、
M&Aの知識経験などが求められ、
事業承継対策は、法律問題のるつぼとも言われるほど、
本来は、法律家である弁護士の関与が求められる分野です。
なお、М&Aについては、仲介会社が売り手と買い手の間に入って仲介していることが多い状況です。
確かに、マッチングについては仲介会社の果たす役割が大きいのは事実です。
しかし、仲介会社は、あくまで仲介を行うので、売り手の立場だけを考えてアドバイスはしてくれません。
さらに言えば、今後も顧客になる可能性のある買い手側に立って動かれてしまうリスクも皆無ではありません。
実際、仲介会社から提示された契約書が、売り手側の立場で作成されていないことも珍しくはありません。
一方、弁護士は、依頼者のためだけにアドバイスし、代理人活動を行います。
仲介はМ&A仲介会社にお願いしつつも、
売り手の立場でアドバイスをしてくれる弁護士が求められると考えます。
後継者が安心して経営出来るように、
また、第三者への売却後の先代経営者の引退後の生活(創業者利益・老後資金の確保)のために、
ひいては従業員の雇用確保のためには、弁護士の関与が不可欠と考えます。
当事務所では、弁護士として経営者・社長様に寄り添う立場で、アドバイスをさせて頂きます。
また、税理士その他の専門家と連携して対応させて頂いております。
まとめ
以上、事業承継とは何か、事業承継対策の必要性、事業承継の3つの方法、
弁護士による事業承継対策、弁護士が事業承継に関与すべき理由について解説いたしました。
事業承継を実行したものの裁判沙汰になっているケースも珍しくありません。
経営面、税務面の対策で安心せずに、法務面については、弁護士に相談することをお勧めいたします。
解決事例
(事例1)独身で子供がいない経営者からの相続と認知症対策の相談がきっかけで、第三者へのM&Aによる事業承継を実現した事例
相続対策と認知症対策ということでご相談に乗りましたが、話をよく聞いてみると、いわゆる事業承継対策が必要な案件でした。親族にも従業員にも後継者として適任な方がいなかったため、他社へ売却することで事業承継を実現しました。
顧問契約を締結し、毎月訪問することからスタートしました。法務面のみならず、過去に勤務していたベンチャー企業が売却になった時の経験や監査役としての経験などビジネス上の経験も含めてアドバイスさせて頂きました。
結果として、従業員の雇用を守ることが出来、また、社長様個人としてもそれなりの金額を手にすることが出来ましたので、大変満足して頂けました。売却後は、個人との間で顧問契約を締結し、個人の相続対策について相談に乗っている状況です。
(事例2)非上場・同族会社のオーナー様の親族内承継を実施した事例
多数の収益物件を所有する不動産オーナー様でもありましたので、当初は、不動産の相続対策を希望されていました。ご相談に乗っているうちに、ご相談者様が株主兼代表取締役である非上場・同族会社の株式の承継についても対策を実施すべきことに気付きました。株式を集約して後継者へ承継させる必要性と、相続税の節税・納税資金の確保・他の相続人の遺留分侵害への配慮を意識しながら対策を行いました。税理士と共同で対応いたしました。
※相続に関する詳しい情報は、しらと総合法律事務所の相続専門サイトをご覧ください。