不動産の立ち退きとは?弁護士が交渉の進め方を解説

空地

 

アパートを経営していて、建物が老朽化して建て替えが必要になったり、新たな事業を始めるために土地を有効活用したい場合、賃貸住宅に住んでいる方(賃借人)に退去をお願いしなければならないことがあります。

しかし、賃借人は法律でしっかりと保護されており、契約違反がない場合に退去を求めるのは簡単なことではありません。

この記事では、契約違反がない普通借家契約の賃借人に対して、交渉を通じて立ち退きをお願いするメリットや、交渉をスムーズに進めるためのポイント等についてわかりやすく解説いたします。また、調停や訴訟についても説明します。

 

*この記事は普通借家契約を前提として解説しています。

 

交渉のメリット

 

賃貸している建物から賃借人に退去してもらいたい場合、まずは交渉による解決を考えると良いでしょう。交渉による解決には次のようなメリットがあります。

時間と費用を抑えられる可能性がある

訴訟(裁判)では判決が出るまでに多くの時間と費用がかかります。しかし、交渉であれば、短期間で合意に至り早期に解決する可能性があります。さらに、交渉で解決した場合、一般的には賃借人が自ら退去してくれるため、強制執行手続きが不要となり、追加の時間や費用がかかるリスクも低くなります。

柔軟な解決がしやすい

訴訟でも裁判上の和解をすることで柔軟な解決をすること自体は可能です。ただし、訴訟では立ち退きが認められるか否か、及び、立退料の金額が争点となるため、交渉の方がより柔軟な解決をしやすいといえます。

訴訟で立ち退きが認められないケースでも合意できれば退去してもらえる

借地借家法の定めにより、契約違反のない賃借人に対する立ち退き請求が認められるには、正当事由が必要です。

しかし、交渉であれば法律上の正当事由がなくても賃借人の納得を得られれば、合意に基づき退去してもらえる可能性があります。

(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条
建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

スムーズな明け渡しが期待できる

訴訟で退去が認められても、賃借人が自ら退去しない場合には、強制執行手続きが必要になります。強制執行手続きをすると時間と費用が追加でかかります。

一方、交渉で解決できれば、一般的には賃借人自ら退去するため、強制執行手続きのコストを避けることができます。

また、建て替え等の計画をスムーズに進めることができれば、建て替え等ができないことによる機会損失を減らすことにもなります。

 

交渉のポイント

 

立ち退き交渉を成功させるには、次のようなポイントを押さえることが必要です。

 

退去をお願いする理由を丁寧に説明する

 

賃借人にとって、契約違反をしていないのに退去を求められるのは納得しづらいものです。

そのため、まずは立ち退きをお願いする理由を丁寧に説明することが重要です。

例えば、

 

  • 建物の老朽化が進んでおり建て替える必要がある
  • 新たな事業を始めるために建て替える必要がある

 

といった事情を丁寧に説明することで、賃借人の理解を得やすくなります。

 

賃借人の負担を軽減する提案をする

 

賃借人の立場や都合を考慮し、退去に伴う負担を減らす提案をすることで、賃借人との信頼関係を築くことができれば、交渉がスムーズに進む可能性が高まります。

負担の感じ方は賃借人によって異なるため、賃借人の考えをしっかりと聞いた上で個別の事情に応じた提案をすることが重要です。

賃借人の負担を軽減する提案としては、例えば、以下のようなものが考えられます。

 

(1) 引っ越し先の紹介

 

賃借人に代わって賃借人の希望に沿う引っ越し先を探すと負担が軽減されます。

例えば、賃借人にお子さんがいる場合は学校に近い物件を紹介するなど、生活環境が改善されるような引っ越し先を提案することで、立ち退きに応じてもらえる可能性が高まります。

 

⑵建て替え後の建物に優先的に入居する権利を付与

 

長年同じ場所に住んでいて、違う場所に住みたくないといった方には、建て替え後のアパートやマンションに優先的に入居する権利を付与する提案が考えられます。

 

⑶ 賃借人が納得できる立退料の提案

 

訴訟の見通しを踏まえて提案することになりますが、例えば、早期に退去してもらうことを条件に当初の提案額よりも一定額を上乗せした立退料を提案するといった交渉も考えられます。

 

⑷ 賃借人の都合に合わせた退去日の提案

 

賃借人の事情を考慮し、賃借人の負担が少ない時期に退去をお願いすることも効果的です。

例えば、賃借人に中学生のお子さんがいる場合、中学校に通っているタイミングで引っ越しとなると、通学の負担が大きくなったり、通学自体できなくなってしまうことが考えられますが、

高校に進学するタイミングを退去日として提案することで、現住所よりも通学がしやすい引っ越し先を選ぶことも可能になります。また、更新時期を退去日にすることも考えられます。

 

⑸ まとめ

 

このように賃借人の事情に応じた提案をすることが重要です。賃貸人であるオーナーが賃借人の立場を理解・考慮する姿勢を見せることで、交渉の成功率が高まります。

 

交渉の前に訴訟の見通しを立てておく

 

提案内容や交渉期間を決める上で、訴訟で判決となった場合の見通しを立てておくことが非常に重要になります。

話し合いで解決できなかったが、賃借人に退去を求めたい場合には判決で決着をつけることになるためです。

 

⑴ 判決の見通しを立てる

 

訴訟で判決になった場合、裁判官が賃借人の立ち退きを認めるのかどうかについて見通しを立てておくことが重要です。

見通しを立てる時点では賃借人の事情を把握しきれていないことが通常ですが、見通しを立てておき、交渉を通じて見通しの精度を上げていきます。

立ち退きが認められる見通しの場合には、訴訟により立ち退きを実現することが可能です。

一方、立ち退きが認められない見通しの場合は、交渉を成立させる必要性が高く、提案内容や交渉期間に大きく影響します。

 

⑵ 交渉が成立しなかった場合のコスト

 

交渉が成立せず訴訟で立ち退きを実現する際のおおむねのコストについて見通しを立てておくことも重要です。

訴訟手続きに必要な費用や、訴訟で裁判官が認めるであろう立退料、訴訟で立ち退きが認められても賃借人が退去しない場合の強制執行手続の費用、訴訟で立ち退きを実現する際の明渡時期から考えられる機会損失等についておおよその見積をしておくと、交渉で適切な立退料の提案をすることができるようになります。

 

譲歩可能な範囲を決めておく

 

見通しを踏まえて、交渉期間をいつまでとするか、立退料はいくらまで許容できるか、立ち退き期限はいつまでにするのかといった譲歩可能な範囲を決めておきます。

譲歩可能な範囲を決めておくことで、メリハリのついた交渉をしやすくなり、漫然と交渉してしまうことを防ぐことができます。

なお、交渉を通じて賃借人の事情が判明し見通しの精度が上がることで、譲歩可能な範囲をある程度変える場合もあります。

 

交渉が難航した場合には必要に応じて次の手続きに進む

 

長い間交渉をしても必ずしも解決できるとは限らず、時間を無駄にしてしまう可能性もあります。

そのため、交渉の進み具合を見極めて、状況に応じて調停や訴訟といった次の手続きに進むことを検討することも重要です。

交渉が成立した後は合意書の作成や即決和解を利用する

 

交渉が成立した場合は必ず合意書を作成します。合意書を作成しなかった場合には、後から賃借人が退去に合意していないと言いだすなどトラブルになるリスクがあります。

また、必要に応じて、裁判所の即決和解という制度を利用します。即決和解で和解調書を作成することで、万が一、任意に立ち退かなかった場合に、訴訟を提起せずに強制執行が可能となります。

 

交渉が成立しなかった場合の流れ

 

交渉で解決できなかった場合、調停や訴訟といった次の方法を検討することになります。

調停は裁判所で調停委員が間に入って話し合いをする手続きで、裁判所で第三者の意見を聞きながら話し合いをすることで合意を目指します。

訴訟は裁判官に最終的な判断をしてもらう手続きですが、裁判上の和解によって解決することもあります。

 

退去を求める時期には注意が必要

 

期間の定めの有無や、一定の時期までに更新拒絶の意思表示がなければ従前と同一の条件で契約を更新する旨の条項(自動更新条項)の有無によって退去を求めることができる時期が異なるため注意が必要です。

例えば、賃貸期間が3年間で、自動更新条項によって契約が更新された場合、賃貸期間は更新時から3年間になります。

更新拒絶を行い退去を求めるには、更新拒絶の通知を賃貸期間満了の1年前から6か月前までの間に行った上で、賃貸期間が経過する必要があるため、自動更新されてしまったことにより3年間退去を求めることができなくなることになってしまいます。退去を求める時期についても弁護士に相談することをおすすめいたします。

 

しらと総合法律事務所に依頼するメリット

 

しらと総合法律事務所に立ち退き交渉を依頼することで、

 

  • 弁護士が対応するため賃借人と直接やりとりをせずにすむ
  • 訴訟の見通しを踏まえた交渉が可能
  • 交渉が成立しなかった場合でもスムーズに訴訟に移行できる
  • 交渉から強制執行まで一貫して任せられる

 

といったメリットがあります。賃借人の立ち退きでお困りの方は「しらと総合法律事務所」に是非ご相談ください。

 

まとめ

 

以上、立ち退き交渉について解説いたしました。立ち退き交渉は訴訟と比べて低コストで迅速な解決が可能です。しかし、交渉を成功させる可能性を高めるには、訴訟の見通しを適切に立てた上で、丁寧な事情説明を行い、賃借人の負担を軽減する提案を含む柔軟な交渉をすることが重要で、専門的な知見や経験が必要になります。賃借人の立ち退きでお困りの方はしらと総合法律事務所に是非ご相談ください。