2020/12/24 その他の法律情報
全面的価格賠償とは?
全面的価格賠償とは、共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部を取得させる方法です。
全面的価格賠償の具体例
例えば、2000万円の土地をA(持分2分の1)とB(持分2分の1)が共有していた場合に、土地をAの単独所有とし、AがBに1000万円を支払う場合です。
全面的価格賠償の要件
共有物分割訴訟において全面的価格賠償が認められる要件は、最判平成8年10月31日で次の通り示されています。
「当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するとき」
上記要件は複雑ですが簡潔にまとめると、判断基準は以下のとおりです。
①特定の者に取得させるのが相当であること
次の事情等を総合的に考慮する。
・共有物の性質及び形状
・共有関係の発生原因
・共有者の数及び持分の割合
・利用状況及び分割された場合の経済的価値
・分割方法についての共有者の希望及びその合理性
②共有者間の実質的公平を害しないこと
・価格が適正
・支払い能力が有る
具体的な検討
最判平成8年10月31日は次のとおりに判断し、全面的価格賠償を認めました。
①特定の者に取得させるのが相当であること
・共有物の性質及び形状、利用状況及び分割された場合の経済的価値
→土地の面積は32,1㎡にすぎない。場所(現況は草が繁茂している)等も併せ考えると土地としての社会的、経済的効用が乏しい。
・共有者の数及び持分の割合、分割方法についての共有者の希望及びその合理性
→持分の大部分を有する被上告人が全面的価格賠償を希望している。
・共有関係の発生原因
→特に言及なし
②共有者間の実質的公平を害しない。
・価格が適正
→(不動産鑑定士の鑑定について)適正に評価されている
・支払い能力有
→支払額は19万1000円で履行が困難とはいえない。
明文化・改正民法施行
全面的価格賠償は条文に記載がなく最初は認められていませんでしたが、前述の最判平成8年10月31日判決により認められることになりました。
そして、令和5年4月1日に施行された改正民法258条2項2号で以下のとおりに明文化されました。
第二百五十八条
共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
一 共有物の現物を分割する方法
二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
まとめ
全面的価格賠償の訴訟上の要件は複雑で考慮要素が多い上、現物分割との比較 の観点も必要になり、判断が難しいことが多いです。
共有者間で協議をして合意で解決する場合には、訴訟上の要件にかかわらず全面的価格賠償によることもできますが、より良い解決に訴訟上の要件や見通しを踏まえた協議は不可欠です。協議をする前に一度弁護士に相談することをお勧めします。
監修者:弁護士白土文也
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