2021/02/06 その他の法律情報 遺言・相続
「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」について(前編)~所有者不明土地問題とは?~
令和3年2月2日開催の法務省・法制審議会(民法・不動産登記法部会)において、
「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」が公表されました。
これは、いわゆる所有者不明土地問題の解消に向けた改正案です。
相続登記の義務化という見出しで各種報道がされ、
既に、司法書士への問い合わせがあるという話も聞きます。
前編と後編の2回に分けて、
所有者不明土地問題と法制審議会の要綱案について解説いたします。
今回は、所有者不明土地問題についてです。
所有者不明土地問題とは何か?
所有者不明土地問題とは何かご存じでしょうか。
法制審議会(民法・不動産登記法部会)の第1回会議の部会資料によれば、
所有者不明土地とは、
「土地の所有者が死亡しても相続登記がされないこと等を原因として,不動産登記簿により所有者が直ちに判明せず,又は判明しても連絡がつかない土地」
と定義されています。
誤解を恐れずに言うと、
相続手続を怠ったために、所有者が不明になったり、連絡が取れない土地のことです。
所有者不明土地の問題点①所有者探し(相続人調査)の負担
では、所有者不明土地の何が問題なのでしょうか。
一つは、所有者を探す負担が大きいということです。
土地を利用したり、売買する場合において所有者や共有者が不明なときは、
まず、所有者を探すことから始めなければなりません。
例えば、
登記簿上の名義人が既に亡くなっているにもかかわらず相続登記がされていない場合には、
まずは、名義人の相続人を確定するところから始める必要があります。
いわゆる相続人調査です。
相続人調査のためには、
その名義人の出生から死亡までの戸籍謄本等をすべて取得する必要があります。
また、判明した相続人も既に死亡している場合には、
今度は、その相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等を取得する必要があります。
このような戸籍の収集と相続人調査は、場合によっては、膨大な作業が必要となります。
弁護士や司法書士であれば、日常的に行っている作業でも、
多くの方にとって、戸籍の収集・相続人調査は手間も時間もかかり、大きな負担となります。
また、そもそも、本人及び一定の関係にある者以外は、
権利行使や義務履行に必要であるなどの「正当な理由」が無い限り、
戸籍を請求することが出来ません。
以上のとおり、所有者不明土地については、
所有者を確定すること自体が大きな負担になります。
所有者不明土地の問題点②土地の利用・管理上の支障
所有者不明土地については、所有者・共有者を探すことが大変ということ以外に、
所有者・共有者が判明したとしても、土地を利用し、管理する上で支障が生じ得るという問題もあります。
相続手続きがされず、登記簿上の名義人が長い間変更されないままの土地は、
実際には、名義人の何世代も下の多数の相続人らによる共有状態になっている可能性があります。
当然ですが、共有者の数が増えれば、
その中には、所在が不明な方や、
所在が判明しても海外に居住しているため連絡を取ることが困難な方などが含まれる可能性が高くなります。
また、そもそも、登記簿上の名義人の何世代も下の方たちの共有となれば、
共有者同士は全く面識のない他人同士ということも珍しくありません。
そして、重要なことは、共有状態の土地を売買するには、全員の同意が必要であり、
(保存行為を除き)管理する場合でも、共有者の共有持分の過半数の同意が必要となるという点です。
つまり、所有者不明土地を利用したり、売買する場合であっても、
全員の同意を得たり、持分の過半数の同意を得る必要があるのですが、
それが極めて困難になってしまうという問題があるのです。
当然、他の共有者の同意が得られないために活用を断念せざるを得ないということにもなります。
所有者不明土地の発生原因は?
ところで、なぜ所有者不明土地は発生するのでしょうか。
法制審議会(民法・不動産登記法部会)の第1回会議の部会資料では、
所有者不明土地の主な発生原因は、
・相続登記の未登記
・住所変更の未登記
とされています。
ある調査では、
調査対象の土地のうち所有者不明の割合が約20%、
そのうち、相続登記が未登記のものの割合が66.7%、
住所が変更になったにもかかわらず未登記のものの割合が32.4%、
ということです。
最近は、不動産ではなく、「負動産」と呼ばれることがあるように、
遺産分割協議において、価値のない不動産を押し付けあうことも珍しくありません。
たしかに、価値のない不動産でも、固定資産税の負担や管理の負担がありますので、
そのような状況になることは理解できますが、
所有者不明土地を生み出している原因になっていることは理解すべきでしょう。
所有者不明土地は九州の面積を上回る
なお、所有者不明土地問題研究会の2017年の発表によれば、
所有者不明土地は、九州(368万ヘクタール)の面積を上回る約410万ヘクタールに達しているそうです。
超高齢社会の日本においては、今後ますます大量の相続が発生するため、
放っておけない大問題であることは間違いありません。
当事務所が対応した所有者不明土地の具体的な事例
なお、当事務所でも、所有者不明土地について相談を受けることがあります。
その中でも、解決が困難だった事例として、
約50筆の土地が、それぞれ約50名程度の共有状態になっており、
かつ、それぞれの土地について共有者が微妙に異なっている案件について、
ご相談を受けたことがあります。
ご相談者様は、50人の共有者の1人に過ぎず、単独で処分が出来ないにもかかわらず
50筆の土地全てについて共有者全員分の固定資産税を負担し続けている状況でした。
しかし、共有者のほとんどの方について面識もなく、連絡先も知らず、
そもそも、土地の権利関係がどのようになっているのか把握できていませんでした。
このような状態に至ってしまうと、
解決するためには費用も時間もかなりの負担になりますし、
そもそも解決できない可能性もあります。
そして、このように次世代の方が苦労することになるということは知っておくべきでしょう。
次回は、相続登記の義務化などについて解説の予定です
以上、前編では、所有者不明土地の問題点や原因について説明しました。
後編では、公表された要綱案の主な内容について解説する予定です。
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