2019/11/19 その他 遺言・相続

「数こそ質なり」 ~弁護士として相続分野の専門性を追求するためには~

1 「数こそ質なり」

新浪博士著『数こそ質なり』(角川書店・2014)という本をご存じでしょうか。

著者は、心臓外科医として、とても有名な新浪博士(にいなみひろし)医師です。
(新浪医師の兄は、プロ経営者として、ローソン、サントリーのトップを歴任してきた新浪剛史氏です。)

 

この本の冒頭に書かれている文章を引用します。

 

「外科医というものは手術を重ねることで技術と経験値が上がるし、手術をしない限りは成長できない。~~(中略)~~だから私は、一般でいう「営業」のようなことをして、患者を集めることもやっている。
国際医療センターは新設の機関だったので、開院初年度などは、世の営業マンと変わらないような日々を送ったものだ。「大学教授がそんなことをするのか!?」と驚かれるかもしれないが、いい手術をするためには普通のことだと思っている。

私は思う。「数こそ質なり」と。」

 

外科医は職人であり、腕を磨くためには、手術件数が大切であること、そのためには「営業」努力を惜しまないことが語られています。

ちなみに、彼がどのような営業をしたかというと、

 

  ・「関東病院情報」という専門書を買ってきて、近くにある病院で循環器内科があるところを調べる

  ・電話をかけて挨拶に伺いたい旨を伝える

  ・1日に3~4件を訪問する

 

完全に営業マンです。心臓外科の権威がです!!

開業当時にこの本を読んだ私は、相続案件を取扱業務の柱にする以上は、多くの案件を受任して、専門性を高めよう、そのためには「営業」も頑張ろうと心に決めました。

 

2 遺産分割調停事件の事件数について

ところで、相続のトラブルといえば、遺産分割調停を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、実は、弁護士の数と比べると、遺産分割調停の事件数はそれほど多くありません。

 

司法統計によれば、平成30年に全国の家庭裁判所に新規に申し立てられた遺産分割調停の件数は、14,000件弱、それに対して弁護士の数は、現在4万人強です。

 

現在、申立件数の8割弱に弁護士が関与している状況にあり、当事者数が3人以上の案件が8割弱を占めているものの、通常は、関与する弁護士は多くて2人~3人、当事者の1人にしか弁護士が付かない場合もあります。

 

そのため、おそらく、多くの弁護士が1年に1件の遺産分割調停も受任していない状況だと思われます。ある弁護士が言うには、統計的には、1人の弁護士が遺産分割調停事件を受任するのは数年に1件ということでした。

 

3 相続案件(相続のトラブル・生前の相続対策)を集中して取り扱う必要性

仮に、3年に1件しか遺産分割調停を受任しないとすると、弁護士を30年経験してやっと10件経験したということになりますが、これでは、明らかに相続分野に詳しい弁護士と言えません。

 

一方で、たとえ弁護士としての経験年数が短くても、相続分野で集中的に経験を積み、仮に、1年間に10件受任出来たとすると、それだけで相続分野については経験30年の弁護士と並んでしまいます。

5年も経験を積めば、50件経験したことになり、その差は歴然です。

 

やはり、弁護士として専門性を高めるため、一流になるためには、特定の案件を集中して取り扱う必要があり、そのためにはその分野でたくさん相談されるための「営業」努力をしなければならないのだと私は思います。

 

もちろん、弁護士の「営業」は、他の業界とは全く異なります。

紛争を誘発するようなことがあってはならず、弁護士が必要なときに思い出してもらえる存在になることが弁護士の「営業」だと私は考えています。

 

4 まとめ

今回は、新浪医師の話、遺産分割調停事件の状況、専門性の追求と営業の必要性などについて私の考えを書いてみました。最後まで読んで頂きありがとうございます。

そして、もし興味があれば、新浪博士著『数こそ質なり』(角川書店・2014)を是非読んでみて下さい。

 

調布の弁護士・白土文也